「穴まどひ」という言葉をご存知でしょうか。秋分をすぎても、穴に入らないヘビのことです。のそのそと這うヘビをみて、そろそろ寒くはないか、と案じるあたたかいまなざし。私の好きな季語のひとつです。
「秋の蛇」ともいいますが、やはりヘビをみた人がヘビの冬越しを思いやる気持ちが含まれた言葉です。そして「蛇穴に入る」といえば、「蛇穴を出づ」と対になった季語になります。
七十二候の「蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)」も、春分前の「蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)」と対になっているのはみなさまご存知の通りです。
虫という字は元々、ヘビを象った象形文字で、本来はヘビを示す言葉でした。その後、人、鳥、魚、獣のどれにも属さない生きものをさすのに使われるようになったようです。そういえば蛙(かえる)、蜥蜴(とかげ)には虫編がついていますし、蝦(えび)、蛤(はまぐり)、蜆(しじみ)など、甲殻類や、貝類にも虫の字が使われています。
七十二候の春と秋に登場する「蟄虫(冬ごもりする虫)」は、虫だけでなくカエルやトカゲを含む、と説明されていることが多いのですが、本来は、ヘビを始めとする両生類や、爬虫類をさしていることを知っておいていただけたらと思います。
カエル、イモリ、サンショウウオは両生類。ヘビ、トカゲ、カメ、ヤモリは爬虫類。よくみるとなかなかかわいい生きものたちだと思いませんか?
では、生きものではない虹(にじ)になぜ虫編がついているのでしょう。虹は「空を貫く大蛇が龍になるときの姿」と考えられていたためです。昔の人々にはあの七色のレインボーが、龍の化身のようにみえていたんですね。
ところで、ヘビが嫌いという人が意外と多いですが、よほど近づかない限り、攻撃はしてきませんし、基本的には人を避けるおとなしい生きものです。ヘビ好きな私などは、からだをくねらせて進むときの見事な曲線に、つい見とれてしまいます。ふだんの生活ではなかなかみられない、美しい動きだなあとおもいます。
うちの田んぼでよく見かけるのはヤマカガシです。棚田の石垣に住んでいるのか、田植えが終わったころ、毎年、水田の中を気持ちよさそうに泳いでいます。
ヘビにとって田んぼにいるカエルはご馳走なのでしょう。
最初の年は、明らかにヤマカガシのいる田んぼに手を入れるのが怖かったのですが、農家さんに「なあに、向こうが逃げていくから、大丈夫だよ」と笑われて以来、ヤマカガシとともに田んぼに入っている感覚も、なかなか楽しくなってきました。
そして、同じヘビかどうかはわかりませんが、秋の終わりにも必ず1回はヘビに出会います。人間がいるとわかると、するすると山の方へ逃げていってしまうのですが、そんなときはまるで田の神が山にお帰りになる姿をみせてくれたような気がして、そっと手を合わせたくなってしまいます。
もちろん虫たちも冬越しはしますが、成虫のまま越冬できる虫は少なく、盛んに鳴いていたコオロギやバッタはみな死んでしまい、卵で冬を越します。カマキリも卵ですね。モンシロチョウやアゲハはサナギで。
カブトムシは幼虫の状態で土中に。カメムシやテントウムシは成虫のまま、木の幹などで集団越冬します。スズメバチやアシナガバチは新女王バチだけが生き残って、孤独に越冬します。冬によくみかけるミノムシも、夏までに大きくなったミノガの幼虫が越冬する姿です。