巣籠りの戸をあける、といえば、まず思い浮かぶのがアリですね。動き始めたアリが早くも獲物をみつけて、一生懸命、引っ張っている。そんなシーンに出会えるころ。スミレの花も咲き出しました。
雪がとけた春先の田んぼにいくと、畔や土手にはさまざまな穴があいています。その穴のいろいろが面白くて、穴ばっかり撮ってみたことがあります
ネズミでしょうか、カエルでしょうか。想像力を掻き立てられるいろんな穴の数々。穴の主が誰なのかはいまだによくわかりませんが、とにかくたくさんの生きものがこの場所を選び、冬ごもりした証として、その痕跡を楽しんでいます。
うちの田んぼでは来月あたりに、畦塗りをします。畦塗りとは田んぼの縁周りの作り直しのことで、モグラが穴をあけてしまうことがあるためです。どこかに崩れや穴があいたまま水を入れると、ヒビの入った甕のように水が漏れてしまうので、泥でしっかりと塗り直して、穴をふさぎます。
七十二侯の春と秋に登場する「蟄虫(冬ごもりする虫)」は、「虫だけでなくカエルやトカゲを含みます」と説明されていることが多いのですが、本来は、ヘビを始めとする爬虫類や、両生類をさしていることをちょっと知っておいていただけたらと思います。
虫という字は元々、ヘビやマムシをあらわす象形文字から始まっています。そこからトカゲ、カエルなどの爬虫類や両生類をさすようになり、さらにエビ、カニ、ハマグリ、シジミ、サソリなど、鳥でも、獣でも、魚でもないような小動物をさすようになったのだそうです。
漢字で書くと、蛇、蝮、蜥蜴、蛙、蝦、蟹、蛤、蜆、蠍。虫じゃないのに虫偏がつくのはそのためなんですね。では小さな虫はというと、蟲(ちゅう)という字を使っていたのですが、次第に簡略化されて虫になってしまい、こちらの方が一般的になってしまった、というわけです。
枯葉の陰にいるまだ眠そうなカエルに出会ったり、日のあたる石の上に出てきて、じっとしているトカゲに出会ったりするのは楽しいものです。この大地に共に生きている、そんな喜びがふつふつと湧いてきます。
地中の虫だけでなくミツバチやチョウに出会うことも多くなってきます。
最初に見かける蝶は黄色のキチョウであることが多く、多くの俳人が初蝶として詠みますが、黄蝶は成虫のまま冬越しするので、サナギからスタートするモンシロチョウやアゲハ蝶よりも、早く舞い始めます。
越冬したキチョウたちもすぐに飛び立つことはなく、必ずひなたに出てきて羽を広げ、十分に体温が上がったとき、ひらりと飛び始めます。
土中の虫たちが目覚めたり、木の芽がぐんぐんと力強く芽吹いていくように、私たち人間のからだも、気候の変化に合わせて知らない間にどんどん代謝が上がり、身体を回すためのエネルギーを必要としています。そのため何もしていないのに疲れやすかったり、体調を崩しやすい時期でもあります。
肝臓の働きを高める貝類や苦味のある山菜などが食養生として知られていますが、私のいちばんのおすすめは「ひなたぼっこ」です。
トカゲが石の上で体温をあげるように、飛び立つ前のチョウが羽をあたためるように、固まっていたからだをほぐして、停滞していた代謝を少しずつあげていく。そんなイメージです。ヨガにも太陽礼拝のポーズがありますが、日中、気温が高いときに外に出て、ゆっくり散歩をしたり、花にいる虫を見たり、水鳥を眺めたり、ただ静かに陽気を浴びながらリラックスする。
特別な運動をしなくても、案外、そんなことで代謝がよくなり、自律神経もととのってしまうような気がします。あたたかい日は、ぜひ身近ないきものたちのように「ひなたぼっこ」をしてみてください。
文責・高月美樹