きょうは七十二候の「寒蝉鳴(ひぐらしなく)」のお話です。
今年はカナカナの声、もう聞かれたでしょうか。都会ではなかなか聞く機会がないので、カナカナの声を聞きたい、と思う人は多いようです。
セミはそれぞれ鳴き声の違いがはっきりとわかり、季節によって変化していきますので、セミの声で時の経過を感じることが多いかと思います。
私が最初にセミの声を聞くのは5月下旬ごろ、田植えのときに聞こえてくる「エゾハルゼミ」です。田んぼの脇の木立ちから、カナカナに似た優しい鈴のような鳴き声が聴こえてきます。
次に夏の始まりを感じさせてくれるのは、「アブラゼミ」。「ジーーーーッ」とか「ジリジリジリジリ」と聞こえます。時々、「ジリッ」と小さく鳴いて、飛んだりしますね。梅雨の前にチラッと鳴き、梅雨の合間にも、ちょっと遠慮がちに「ジーッ」と鳴き出したりするのを、家の中で静かに聴いているのが私は好きです。
そして夏の盛りといえば「ミーン、ミンミンミンミン、ミーーーン」。「ミンミンゼミ」です。このセミは暑い日盛りが好きなようで、梅雨明けの猛暑が始まると、いよいよ勢いよく鳴き出します。「ミーン」という声を聞いた途端に、急に暑いと感じるのは面白いものだなと思います。関西では「シャシャシャシャシャシャ」と鳴く「クマゼミ」が夏の代表でしょうか。
晩夏に聞こえてくるのが、「ツクツクボウシ」。「オーシーツクツク、オーシーツクツク、オーシーツクツク、ツゥイヨー、ツゥイヨー、ジーーーー」。次第にアップテンポになったあと、長く尾を引くあのメロディ。アブラゼミなどに混じってツクツクボウシが鳴き始めると、ちょっと切ない気持ちになります。夏も峠を越え、折り返し点に入ったな、と感じる瞬間です。
そして「ヒグラシ」。涼しげな高い金属的な声は、「キキキキ、ケケケケケ、カカカカ」とも聴こえますが、やっぱり「カナカナ」ですね。漢字では「蜩」「日暮らし」または「かなかな」でも正式な季語になります。「蝉(せみ)」は夏の季語ですが、「法師蝉(ほうしぜみ)」や「蜩(ひぐらし)」は秋の季語。
「秋蝉」とか「寒蝉」は現在、法師ゼミ(ツクツクボウシ)とヒグラシ、どちらにも使われる季語ですが、時期的に晩夏になってから鳴き始めるのはツクツクボウシですので、本来は法師ゼミをさしていたと思われます。ただ日本人の感性として涼しげで切なく感じるヒグラシも、いつしか秋の季語となり、日本の七十二候ではヒグラシのルビがついています。
ヒグラシはツクツクボウシよりもだいぶ早く、7月から鳴いているのですが、「日暮らし」という名前の通り、暑い日中が苦手で、早朝か夕方、十分涼しくなってから鳴きます。そのため、薄暗いところや、涼しい時間帯の中で聴いていることが圧倒的に多いわけです。記憶の蓄積なのか、カナカナの声を聞いた途端に「ああ、涼しい」と感じるのは不思議なもの。
ましてや立秋をすぎると、より一層、もの悲しく、涼しげに感じます。気温が上がらない涼しい日や、昼もなお暗い杉林のような場所では、昼間でも大勢で鳴いていますので、「カナカナ」の大合唱はまさに「蝉時雨」。
「涼しさ」を浴びるシャワーのようで、嫌いな人はあまりいないのではないでしょうか。そしてやっぱり、秋のはじめに、終わりゆく夏を惜しみながら聞くのが、もっとも心に染み入ります。
今年聞けなかった方のために、動画を送ります。
よろしければ、聴いてみてください。
出典:暦生活