二十四節気と七十二候
今日は七十二侯の「牡丹華(ぼたんはなさく)」についてのお話です。
牡丹の旬は十日余り。花は今がいつなのかをはっきりと教えてくれます。牡丹の花が咲いたら、春は終わりです。牡丹はいわば春の最後を務めるおおとり。いちばんわかりやすい季節の目安になります。
牡丹は百花の王で、花王。花の王様です。一体、誰のためにこんな豪華な花を咲かせているのか、と思うほど豪華であでやか。しかも品格があります。
牡丹の花は密教の宇宙観をあらわした胎蔵界曼荼羅の周囲にも描かれています。名物裂(めいぶつぎれ)の中で、もっとも格の高い柄とされるのがこの牡丹唐草文で、曼荼羅の周囲のほか、最上級の表具、仏教装飾にもしばしば用いられ、やがて牡丹そのものが仏の言葉をあらわすシンボルとなりました。
これはわが家のリビングに飾っているアンティークのお皿です。
牡丹と雀、牡丹の蝶は江戸時代からしばしば描かれてきたモチーフです。大輪の牡丹と鳥や蝶は、春の終わりの穏やかで美しい季節を象徴する組み合わせなのです。
卯月の別名は鳥来月(とりくづき)。春の最後を飾る牡丹が咲く頃、小鳥たちは繁殖期を迎えて、美しくさえずります。巣立ちを迎える頃、木々は万緑に包まれて雛たちの姿をかくし、青虫などのえさがもっとも豊富になっています。卯月は新緑と鳥たちの季節。大輪の牡丹を眺めるときは、さえずりにも耳を傾けてみてください。
ところで牡丹といえば、唐獅子牡丹(からじしぼたん)がよく知られています。唐獅子は魔除けの力をもつ聖獣で、すべての獣の中でもっとも強い百獣の王。そして牡丹はすべての花を代表する百花の王。唐獅子牡丹は「百花の王」と「百獣の王」の組み合わせとなり、最強の守護と富貴を象徴する魔除けとして用いられてきました。桃山時代に中国から伝来し、江戸後期には「勇気」の象徴として流行したそうです。
伝説では獅子は牡丹を好むとされ、夜は牡丹の下で眠るとされています。強い獅子の唯一の弱点は自分の体に住んでいる小さな虫。その虫は牡丹の夜露にあたることで死んでしまうのだそうです。大好きな牡丹の花に寄り添う獅子がひょうきんな顔をしているものが多く、楽しい気持ちになります。心優しく強い。そんな獅子のイメージが広まったのでしょう。
謡曲『石橋』では紅白の牡丹が置かれた舞台に、文殊菩薩にお仕えする獅子が登場し、国土安寧を願って勇壮に舞います。この『石橋』が歌舞伎にとりいれたのが、親子共演でよく話題となる『連獅子』です。
牡丹は平和と安寧の象徴。清らかに和する季節に咲く大輪の花。清らかで強いものは、本当に眺めるだけでエネルギーをもらえます。