七十二候「禾乃登(こくものすなわちみのる)」は処暑の末候で、9月2〜7日頃。「禾(のぎ)」は穀物の穂先の毛のことで、稲が実り始める頃という意味です。
うちの田んぼは水が冷たいので、ようやく花が咲いて実が入り始めたところで、まだ青いままですが、実りの早い地域ではすっかり稲穂が頭を垂れ、黄色く色づき始めています。とはいえ、稲刈りはまだもう少し先です。
「禾乃登(こくものすなわちみのる)」は毎年、二百十日に重なる七十二候で、ちょうどこの頃から台風の季節に入り、ようやく実り始めた稲に被害をもたらすことが多いため、農家さんにとってハラハラする時期でもあります。
八朔(はっさく)は旧暦八月一日の略で、「田の実の節供」とも呼ばれますが、「田の実」と「頼み」をかけた言葉で、台風のくる前に早稲(わせ)の初穂を神に捧げて、大きな被害がないことを祈り、豊作を祈願する予祝(よしゅく)の意味合いがあり、八朔そのものがこの日に吹く強風をさすこともあります。
ところで私は23年間、この時期を富山県八尾の「風の盆」で過ごしてきました。「風の盆から恋風邪ひいて 夜毎おわらの夢をみる」という歌詞の通り、取材がきっかけで伺って以来、すっかり魅了され、地元の連に入れていただいて、毎年、明け方まで踊ってきました。
「風の盆」は先祖供養と五穀豊穣、二百十日の風を治めるしめやかなお祭りです。人気の理由は哀愁のあるメロディや洗練された踊りの美しさだけでなく、石畳の風情、虫の音、月、そしてせつない胡弓の音色が風のまにまに聴こえてくる、真夜中から明け方の幻想的な雰囲気にあります。
夏と秋の入り混じる空を「行き合いの空」といいますが、蒸し暑いような涼しいような、終わりゆく夏と虫の音の高まる秋の、なんともいえない季節の境目がこの祭りの不思議な魅力を作り上げているようにおもいます。
なかでも蟋蟀(こおろぎ)にまじって、鈴虫がリーンリーンと力強く鳴いているのが、路地裏の静かな月夜を一層、情趣深く感じさせてくれます。鈴虫の別名は、月鈴子(げつれいし)。月から降ってくるような清らかな鈴の音という意味なのでしょう。蟋蟀や鉦叩きなどは11月ごろまで鳴いていますが、鈴虫が鳴くのは晩夏から初秋にかけて。9月下旬には聴こえなくなります。都会ではなかなか聞けない鈴虫の声。動画がありましたので、ちょっと聴いてみてください。
(風の盆にて)
「風の盆」は9月1~3日の3日間行われますが、3日間とも晴れることはなく、必ずといっていいほど、雨が降ります。行き帰りの道中もどしゃぶりに遭遇することが多く、やはり雨の季節です。
出典:暦生活